きれいだ。
エメラルドに輝く瞳が、ふわふわと揺れる蜂蜜色の髪が。
そのひとつひとつから、光が生まれている。
まるで、空から舞い降りてきた天使のようだ。
虹
「きれいだよ、ヴォルフ!」
おれたちの可愛い愛娘が、歓声をあげる。
本当にその通りだ。凛とした美しいその姿は、綺麗としか言いようがない。
出来ることならば今すぐ思いっきり抱きしめて、彼を創りあげているパーツそれぞれにいっぱいいっぱいキスをしたい程だ。
「・・・・そうか?」
金色の天使は、決まり悪そうに娘に載せられた頭の花冠をいじる。
グレタも器用なものだ。おれは昔おふくろに何度教えられても、白いシロツメクサの花が編めなかった。
「ね、すっごくキレーだよね、ユーリ?」
グレタが、とても嬉しそうにおれに問いかける。
「ああ、本当に」
彼女のその赤茶の暖かな髪を撫でて、頷く。
本当に、あれも幸せ者だよな。こんなに可愛い娘と、美しい伴侶と一緒だなんて。
みんなに自慢してまわりたい。
な?というふうにヴォルフラムの顔を見つめると、彼はたちまち白い頬を桜色に染めて、俯いてしまった。
照れているのだろうか。
だとしたら、もっと可愛い。おれに見つめられることなんて、もうとっくに慣れていてもいいはずなのに。
ヴォルフはいつだって純粋で、初心で、見ていて自然と笑みが零れる。
「ヴォルフー?せっかくキレーなのに、下向いてたら分かんないぞー」
クスクスと笑いながら、おれはグレタといっしょにヴォルフラムをつつく。
「そうだよヴォルフ!キレーなの、もっとユーリに見せなきゃもったいないよー?」
娘にまで茶化されて、みるみるうちに彼の首筋から真っ赤に染まっていく。耳たぶまで赤くしちゃって、器用なやつだ。
「・・・・・そ、そんなに、言うなっ・・・・・・」
絞り出される声が、弱々しい。そんなに照れなくたっていいのに。
可愛いなぁ、もう。こいつは、自分の可愛さとか諸々のことについて、考えたことがあるのだろうか。
仮にも、この魔王様を骨抜きにしてしまうほどなのだから。
可愛いものがちまっといたら、放っておいてはいけないからおれは無条件に彼を抱きしめた。それはもうぎゅっと。
大好きな髪の匂いとピンク色の花の香りが鼻をくすぐって、ふわふわとした感覚に囚われる。彼の身体はいつものように温かくて、すっぽり収まってしまうほど小さかった。
抱きしめられた方はただただ硬直して、耳の赤さが増した。
そのうち火が出るのかと思うくらい。
「ヴォルフ」
小さく呼ぶと、ヴォルフの方がビクリと揺れた。それから少し身を捩って、おれから離れようとした。
おれはそれを見逃さず、咄嗟に彼をぐいと引き寄せる。まだ耳は赤いままで、羞恥は引いていないようだ。が、それで観念したのか、ヴォルフは急におとなしくなった。
それでも未だ俯いたままで、綺麗なエメラルドの瞳が見られない。だからおれはそっと髪を撫でて、
「・・・ヴォルフ、顔あげてよ」
俯いた彼の口から、う、という声が漏れた。
こういう時はやっぱり頑固なので、おれは促すようにして蜂蜜色の髪にキスをした。
・・・ま、こういうところが可愛いんだけどね。
「ヴォールフ」
すると、やっと照れ屋の美少年がおずおずと顔を上げてくれた。
その翠の瞳に、ぼんやりとおれの顔が映る。
「・・・・・・・な、なんだっ」
か細く漏れ出す声は少し上擦っていて、相変わらず頬は真っ赤だ。
今まで抵抗できなかった分、態度だけでも大きく見せようとするところが、たまらなくいじらしい。
まあ実際のところ、ただ可愛いだけで全っ然迫力はないんだけど。
おれはクスリと笑って、ピンク色のほっぺを撫でた。
そして、そっと触れるだけのキスをひとつ。
「・・・・っな、なにを・・・・・!」
途端にヴォルフはまた更に頬を真っ赤にして、反射的に口元を拭った。
多分、照れ隠しだろう。
「すっげぇ可愛い。綺麗。大好き」
「ちゃ、ちゃんとした言葉を喋れ!」
思いのままを口にすると、直ぐに怒られてしまった。
本当のことなのに。
「あーっ、お父さまたちラブラブしてるーっ」
グレタが、嬉しそうに駆け寄ってきた。
手にはまた、新しい花冠が握られていて、その一つをおれの頭に載せる。
親子でお揃いだ。
「グレタも、おいで」
「わーいっ」
グレタの手を引いて、おれとヴォルフの3人でくっつく。
それぞれの体温が温かくて、とても心地良かった。
「ユーリ」
ヴォルフラムが照れくさそうに顔を上げて、おれの頬にキスをした。
そしてグレタも。
おれは微笑んで、ふたりを一緒にぎゅっと抱きしめた。
―――ああ。
「・・・・幸せだな」
「まったくだ」
こんな温かい時間が大好きだ。いつまで続いたって構わないと思える時間が。
3人で、他愛も無く過ごしているだけのこの時間が、とても愛おしい。
「・・・あ、見て!」
まるでその象徴だとでも言うように、青く晴れ渡った空に綺麗な虹が架かった。
並んだスペクトルの光が輝いている。
「・・・・ずっと・・・・・ずっと3人で、一緒にいような」
夢見心地で、おれは呟いた。
ヴォルフラムもグレタも、心からそう思ってくれていたらいいと、願った。
虹はまだ消えない。
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